「すぐに売るのはもったいない。とりあえず持っておこう」——相続した実家や、住み替え後の旧居をそのまま保有し続ける方は少なくありません。

しかし、空き家は「持っているだけ」でお金がかかります。しかも、その金額は多くの方が想像するより大きい。この記事では、福岡市内の空き家を10年間保有し続けた場合の総コストを具体的に試算します。

固定資産税・都市計画税 — 10年間の負担額

空き家であっても、固定資産税と都市計画税は毎年発生します。「住んでいないのに税金を払う」——これが空き家保有の最も確実なコストです。

福岡市内の一般的な一戸建て(土地100㎡・建物80㎡・築30年)を想定すると:

項目年間の目安10年間
固定資産税約8〜12万円約80〜120万円
都市計画税約2〜3万円約20〜30万円
合計約10〜15万円約100〜150万円

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なお、これは「住宅用地特例」が適用されている場合の金額です。後述する「特定空家」に指定されると、この金額が最大6倍に跳ね上がる可能性があります。

維持管理費 — 空き家の「最低限」はいくら

空き家を放置すると急速に劣化します。最低限の維持管理として、以下の費用が発生します。

定期的な換気・通水・清掃: 自分で行う場合はゼロ円ですが、遠方に住んでいる場合は管理会社に委託する必要があります。月額5,000〜15,000円(年間6〜18万円)が相場です。

庭の草刈り・植木の手入れ: 年2〜4回の業者依頼で、1回あたり2〜5万円。年間で8〜20万円。放置すると近隣からの苦情やクレームの原因になります。

電気・水道の基本料金: 通水・点検のために契約を維持する場合、年間約3〜5万円

ゴミ拾い・不法投棄対策: 空き家とわかると不法投棄のターゲットになるケースがあります。門扉や郵便受けの管理も必要です。

管理項目年間コスト(目安)10年間
管理会社委託費6〜18万円60〜180万円
庭の手入れ8〜20万円80〜200万円
電気・水道基本料3〜5万円30〜50万円
合計17〜43万円170〜430万円

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修繕・劣化コスト — 人が住まない家は傷みが早い

空き家は、人が住んでいる家より圧倒的に早く劣化します。その理由は:

換気がされない→ 湿気がこもり、カビ・結露・木材の腐朽が進行

水道を使わない→ 排水管のトラップが乾いて下水の悪臭が侵入。害虫の侵入経路にも

小さな損傷が放置される→ 雨漏り・ひび割れ・シロアリ被害が進行し、修繕費が膨らむ

10年間で発生しうる修繕費の目安:

修繕項目費用の目安
屋根の補修・葺き替え50〜150万円
外壁の塗り替え80〜150万円
シロアリ駆除・防蟻処理15〜30万円
給排水管の修繕20〜50万円
室内のカビ除去・クリーニング10〜30万円
合計(10年間)175〜410万円

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修繕しなければ「売れない」リスク

劣化が進んだ空き家は、そのままでは売却が困難になります。買い手がつかない、住宅ローンの審査が通らない(旧耐震基準・著しい劣化)——結果として、解体して更地にしないと売れない状況になることも。解体費用は木造一戸建てで100〜200万円が目安です。

火災保険・損害賠償リスク

火災保険: 空き家でも加入をおすすめしますが、空き家は保険料が割増になるケースがあります。また、長期間無人の場合は保険会社に通知する義務があり、通知を怠ると保険金が支払われない場合もあります。年間約3〜8万円。

損害賠償リスク: 空き家の壁が崩落して通行人にケガをさせた、空き家から出火して隣家に燃え移った——こうしたケースでは、所有者に損害賠償責任が生じます。民法717条(土地工作物責任)は無過失責任であり、「知らなかった」は通用しません。

「特定空家」に指定されると税額6倍

2015年施行の「空家等対策特別措置法」により、管理不全の空き家は特定空家に指定される場合があります。

特定空家の判断基準:

・倒壊等の危険がある

・衛生上著しく有害(ゴミの堆積、悪臭等)

・景観を著しく損なう

・周辺の生活環境に悪影響

特定空家に指定されると、住宅用地特例が解除されます。これにより:

項目通常特定空家指定後
固定資産税(200㎡以下の土地)評価額×1/6評価額×全額(6倍)
都市計画税評価額×1/3評価額×全額(3倍)
年間税額の目安約10〜15万円約40〜70万円

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さらに2023年の法改正で、特定空家の「前段階」である「管理不全空家」も固定資産税の優遇解除の対象になりました。「まだ大丈夫」と思っている間に指定を受けるリスクが高まっています。

10年間の総コスト試算

ここまでの費用をまとめると:

費目10年間の合計(目安)
固定資産税・都市計画税100〜150万円
維持管理費170〜430万円
修繕費175〜410万円
火災保険30〜80万円
合計475〜1,070万円

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10年間で約500〜1,000万円。これが「とりあえず持っておく」の代償です。

しかもこれは「特定空家に指定されない」「大きな事故が起きない」という前提の数字です。特定空家に指定されれば税額が跳ね上がり、事故が起きれば損害賠償が加わります。

「いずれ値上がりするかも」は本当か

「持っていれば値上がりするかもしれない」——その期待は、10年間で500〜1,000万円の保有コストを上回る値上がりがあって初めて成り立ちます。福岡市の郊外エリアや築古の一戸建ての場合、10年間で500万円以上値上がりする可能性は極めて低い。「持つコスト」と「期待される値上がり」を冷静に比較してください。

「今売る」場合との比較

同じ物件を今売却した場合と、10年間保有した後に売却した場合を比較します。

項目今売る10年後に売る
売却価格(想定)1,500万円1,200〜1,400万円
仲介手数料等▲約56万円▲約47万円
保有コスト(10年間)0円▲475〜1,070万円
手取り合計約1,444万円約83〜878万円

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このシミュレーションでは、10年後に売るより今売るほうが500〜1,300万円以上手取りが多い結果になります。「持っていたほうが得」は、多くのケースで幻想です。

よくある質問

Q. 空き家の管理を自分でやれば費用は抑えられますか?

通える距離にお住まいなら可能ですが、月1〜2回の訪問は最低限必要です。換気・通水・庭の管理・郵便物の確認——これを10年間続ける手間と時間のコストも考慮してください。遠方にお住まいの場合は現実的ではありません。

Q. 更地にすれば固定資産税は下がりますか?

逆です。更地にすると住宅用地特例が適用されなくなり、固定資産税が上がります(土地の税額が最大6倍)。ただし、特定空家に指定されるリスクは解消されます。更地にするなら、速やかに売却するのが合理的です。

Q. 空き家を解体して売るのと、建物付きで売るのはどちらが良いですか?

物件の状態と立地によります。建物がまだ住める状態なら、解体せずに売却したほうが費用を抑えられます。建物の劣化が著しい場合は、更地のほうが買い手がつきやすいこともあります。判断に迷ったら、査定時にご相談ください。

Q. 空き家を売るとき、3,000万円特別控除は使えますか?

住まなくなった日から3年目の年末までに売却すれば、3,000万円特別控除が使える可能性があります。また、相続した空き家にも一定の条件(昭和56年5月31日以前の建築、相続開始から3年以内の売却等)で「被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除」が適用される場合があります。

「"とりあえず持っておく"は、実は最もコストがかかる選択肢です。10年間で500万円以上のお金が消えていく。その金額を知ったうえで"それでも持つ"と判断するなら、それは正しい判断です。でもまずは、数字を確認してください」

Base-up 久保 塁