「売らずに貸したほうが得なのでは?」——不動産を手放すかどうか迷ったとき、多くの方がこう考えます。

しかし、賃貸の収益性は「なんとなくの印象」と「実際の数字」で大きく異なります。この記事では、福岡市の賃貸市場データを区別・物件タイプ別に整理し、「売る」と「貸す」を数字で比較するための材料を提供します。

福岡市の家賃相場 — 区別・間取り別データ

福岡市の家賃相場は、東京23区と比較すると約40〜50%の水準です。これは「住みやすい」というメリットの裏返しで、賃貸経営の収益性は東京ほど高くないことを意味します。

エリア1LDK2LDK3LDK
中央区(天神・大名)7.5〜9.5万円11〜14万円14〜18万円
博多区(博多駅周辺)6.5〜8.5万円9.5〜12万円12〜15万円
東区(千早・香椎)5.5〜7万円7.5〜9.5万円9〜12万円
南区5〜6.5万円7〜9万円8.5〜11万円
早良区(西新・百道)6〜8万円8.5〜11万円10〜14万円
城南区5〜6.5万円7〜8.5万円8〜10万円
西区4.5〜6万円6.5〜8万円7.5〜9.5万円

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上記は築10〜20年の物件の目安です。築年数が古くなるほど家賃は下がり、築30年超では上記から20〜30%下がるケースが一般的です。

空室率の推移 — 福岡市は本当に「埋まりやすい」のか

福岡市は人口増加が続いており、賃貸需要は相対的に強い都市です。しかし、すべての物件が「すぐ埋まる」わけではありません

総務省の住宅・土地統計調査によると、福岡市の賃貸住宅の空室率は約12%(2023年)。全国平均(約19%)より低いものの、10戸に1戸以上は空いている計算です。

空室リスクが高い物件の特徴は明確です。駅から遠い(徒歩15分超)、築年数が古い(築25年超)、間取りが中途半端(2DK・3DKなど)——これらの条件が重なると、空室期間が長期化する傾向があります。

「福岡は人口が増えている」の落とし穴

福岡市の人口増加は事実ですが、増えているのは主に単身者と若年層です。彼らが求めるのはワンルーム〜1LDKの駅近物件。ファミリー向けの3LDKや郊外の物件の需要が同じように増えているわけではありません。「福岡は人口が増えているから貸せば埋まる」という思い込みは危険です。

表面利回りと実質利回りの違い

表面利回りとは、「年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100」で計算されるシンプルな指標です。しかし、実際の収益性を見るには「実質利回り」で考える必要があります

項目計算例(3,000万円の物件・月12万円)
年間家賃収入144万円
表面利回り4.8%
年間経費(管理費・修繕積立金・固定資産税・管理委託費等)▲約62万円
実質年間収入約82万円
実質利回り約2.7%

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福岡市の一般的な区分マンションの実質利回りは2〜4%程度です。ここから空室リスク・家賃下落リスクを考慮すると、手元に残る利益はさらに少なくなります。

「利回り5%以上」の広告には要注意

不動産投資の広告でよく見る「利回り5%以上」は、ほぼすべて表面利回りです。経費・空室・修繕を加味した実質利回りは、表面利回りの50〜70%程度になるのが一般的です。数字の「見せ方」に惑わされないようにしましょう。

賃貸経営の「見えにくいコスト」

賃貸経営には、家賃収入の裏側に多くのコストが隠れています。

管理委託費: 家賃の5%前後。月12万円の物件なら月6,000円、年間7.2万円。

管理費修繕積立金: 自分が住んでいなくても毎月かかります。月2〜3万円が一般的で、築年数とともに値上がりする傾向があります。

固定資産税・都市計画税: 年間10〜20万円。マンションの場合、建物部分にもかかるため一戸建てより高くなることがあります。

修繕・設備交換費: エアコン(15〜20万円)、給湯器(15〜25万円)、壁紙張替え(10〜20万円)など。10年間で80〜120万円は見ておく必要があります。

入居者募集費用: 入退去のたびに家賃1〜2ヶ月分の広告費が発生します。

所得税・住民税: 家賃収入は不動産所得として毎年課税されます。給与所得と合算されるため、本業の収入が高い人ほど税率が高くなります(最大55%)。

売却 vs 賃貸 — 10年間の収支比較

福岡市中央区・築18年・3LDK(75㎡)のマンションを想定した比較です。

項目売却(今すぐ)賃貸(10年後に売却)
売却価格3,000万円2,400万円(10年後)
手取り(売却分)約2,891万円約2,315万円
家賃収入(10年・実質)約1,100〜1,300万円
経費・税金(10年)▲約750〜900万円
合計手取り約2,891万円約2,515〜2,715万円

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詳細なシミュレーションは「売るか貸すか — 10年間の収支シミュレーションで比較」で解説しています。

ポイントは、売却は「確定した金額」、賃貸は「見込みの数字」だということです。空室が長引く、家賃が下がる、大規模修繕が必要になる——どれか一つでも想定と違えば、賃貸の収支は大きく悪化します。

賃貸に向く物件、売却に向く物件

賃貸に向く物件の条件は限られています。駅徒歩10分以内、築浅(築15年以内)、ワンルーム〜1LDK(単身者需要)、かつ中央区・博多区の都心部——これらを満たす物件は、賃貸経営の採算が比較的取りやすい傾向があります。

売却に向く物件は、それ以外のほとんどの物件です。ファミリー向けの3LDK、郊外のマンション、築20年以上の物件、一戸建てや土地——これらは賃貸需要が限定的で、売却して現金化したほうが合理的なケースが多いです。

よくある質問

Q. 福岡市で一戸建てを貸すのは現実的ですか?

一般的には難しいと言えます。一戸建ての賃貸需要はマンションより限られ、家賃の割に修繕コストが高くなる傾向があります。外壁・屋根・庭の管理は全額オーナー負担です。「貸す」より「売る」ほうが合理的なケースが多いです。

Q. 家賃保証(サブリース)は安心ですか?

サブリースは空室リスクをなくせる反面、保証家賃は相場の80〜90%で、2年ごとに減額されるのが一般的です。「30年保証」でも金額は保証されません。契約解除も容易でないため、慎重に判断してください。

Q. 賃貸に出した後でも売却できますか?

可能です。入居者がいる状態での売却(オーナーチェンジ)もできますが、投資家向けの価格になるため、実需向けより10〜20%低くなるのが一般的です。また、3,000万円特別控除は賃貸転用後3年以内に売らないと使えなくなる点にも注意が必要です。

「"貸せば家賃が入る"のは事実ですが、手元に残る金額は多くの方が想像するより少ないです。まずは売却と賃貸、両方の数字を出してみましょう。数字を見れば、どちらが自分に合っているか自然と見えてきます」

Base-up 久保 塁

データの出典

  • 成約価格データ:国土交通省「不動産取引価格情報」(2008年〜2025年第3四半期)
  • 地価データ:国土交通省「地価公示」、各都道府県「地価調査」

※ 本記事のデータはBase-upが上記公的データを独自に集計・分析したものです。個別の取引を保証するものではありません。