「不動産テックで取引がもっと便利に・透明に・お得になる」——そんな期待を持つ方が増えています。しかし、テクノロジーは万能ではなく、「使い方」によって売主にとってプラスにもマイナスにもなります。この記事では、主要な不動産テクノロジーの現在地と、売主が知っておくべきポイントを解説します。
不動産テックとは何か
不動産テック(ReTech / PropTech)とは、テクノロジーを活用して不動産取引の効率化・透明化を図る取り組みの総称です。日本では2017年頃から本格的に普及し始め、法改正と合わせて利用範囲が拡大しています。
売主に関係する主な不動産テクノロジーは以下のとおりです。
| テクノロジー | 概要 | 本格化した時期 |
|---|---|---|
| IT重説(テレビ電話による重要事項説明) | オンラインで重要事項説明を受けられる | 2021年〜(売買取引) |
| 電子契約 | 紙の契約書を電子化し、印紙代が不要に | 2022年5月〜 |
| AI価格予測 | AIが過去の取引データから推定価格を算出 | 2018年頃〜 |
| VR内覧・3Dウォークスルー | 現地に行かずに物件を閲覧できる | 2019年頃〜 |
| チャット・LINE対応 | 電話ではなくチャットで気軽に相談 | 2020年頃〜 |
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IT重説 — オンラインで受けられる重要事項説明
IT重説とは、重要事項説明をテレビ電話(Zoom・Teams等)で行う制度です。2021年から売買取引でも全面解禁されました。
売主にとってのメリット:
・ 遠方に住んでいても、不動産会社の事務所に出向く必要がない
・ 自宅でリラックスした状態で説明を聞ける
・ 画面共有で書類を大きく表示でき、文字が読みやすい
注意点:
・ 事前に書類を郵送またはPDFで受け取っておく必要がある
・ 通信環境が不安定だと中断される可能性がある
・ 対面のほうが質問しやすいと感じる方もいる
電子契約 — 印紙代が不要になる
2022年5月の宅建業法改正により、不動産の売買契約書・媒介契約書・重要事項説明書を電子化できるようになりました。
売主にとっての最大のメリットは「印紙代が不要になる」ことです。紙の売買契約書には売買価格に応じた印紙税がかかりますが、電子契約なら課税されません。
| 売買価格 | 印紙税額(軽減後) |
|---|---|
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 10,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30,000円 |
| 1億円超〜5億円以下 | 60,000円 |
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ただし、電子契約に対応していない不動産会社や金融機関もまだあるため、事前に確認が必要です。
AI価格予測 — どこまで信頼できるか
AI査定の詳細は別の記事で解説していますが、ここでは要点を整理します。
AI価格予測は、マンションでは比較的精度が高く、一戸建て・土地では精度が低い傾向があります。マンションは同じ建物内の取引事例が豊富で条件が比較しやすいのに対し、一戸建てや土地は個別性が高いためです。
AI査定は「おおまかな相場感を掴む」ための第一歩としては有用ですが、実際の売り出し価格の決定には訪問査定が不可欠です。
詳しくは「売り出し価格の決め方」をご覧ください。
AI査定の使いどころ
「そもそも売却を検討すべきか」を判断する初期段階で、匿名で気軽に使えるのがAI査定の最大の価値です。売却を本格的に検討する段階では、必ず不動産会社の訪問査定を受けてください。
VR内覧・3Dウォークスルー
VR内覧や3Dウォークスルーは、買主が現地に足を運ばなくても物件の内部を見学できる技術です。
詳しくは「内覧のポイント」をご覧ください。
売主にとってのメリット:
・ 遠方の買主にもアプローチできる
・ 内覧件数が増え、売却期間の短縮につながる可能性がある
詳しくは「売却期間の目安」をご覧ください。
・ 「とりあえず見てみたい」という軽い内覧希望者を事前にフィルタリングできる
限界:
・ VRでは日照・騒音・周辺環境を体感できない
・ 最終的な購入判断には現地訪問が必要
・ 撮影費用が数万円〜10万円程度かかる場合がある
不動産テックが変えられないもの
テクノロジーの進化にもかかわらず、不動産取引の本質的な部分は変わっていません。
1. 価格交渉は人間同士の対話——AIが適正価格を提示しても、買主との価格交渉は営業マンのスキルに依存します。
2. 物件の個別事情はデータに表れない——近隣関係、管理組合の雰囲気、生活のしやすさなど、数値化できない情報は人間が判断するしかありません。
3. 信頼関係の構築はテクノロジーでは代替できない——売却は数百万〜数千万円の取引です。「この人に任せられる」という信頼は、対面のコミュニケーションで築かれます。
4. 法的なリスク判断には専門知識が必要——契約不適合責任、告知義務、境界問題など、法的なリスクの判断はAIではなく、経験豊富な専門家が行うべきです。
テクノロジーとの正しい付き合い方
不動産テックは「人間の仕事を奪う」ものではなく、「人間の仕事を効率化する」ものです。売主として意識すべきは、以下の使い分けです。
テクノロジーに任せるべきこと:情報収集・相場の目安把握・書類のやり取り・スケジュール管理
人間に任せるべきこと:価格交渉・販売戦略の立案・法的リスクの判断・物件の個別評価
テクノロジーを賢く使いつつ、最終的な判断は信頼できる人間のアドバイスに基づいて行う——これが、売主にとって最も有利な不動産テックとの付き合い方です。
よくある質問
Q. IT重説は自分で選べますか?
はい、売主・買主がIT重説を希望し、不動産会社が対応していれば利用できます。対面を希望する場合は、従来どおりの方法で受けることも可能です。
Q. 電子契約は安全ですか?
電子署名法に基づく電子署名が施された契約は、紙の契約書と同等の法的効力があります。改ざん防止の技術(タイムスタンプ等)も備わっており、安全性は高いです。
Q. 不動産テックに対応していない会社は避けるべきですか?
必ずしもそうではありません。テクノロジー対応は利便性のひとつですが、売却の成否を決めるのは「物件をいくらで・いつまでに売れるか」です。テクノロジー対応よりも、販売力と誠実さを優先してください。
「テクノロジーは道具です。大切なのは"その道具を誰が・どう使うか"。Base-upは、テクノロジーを活用しつつも、お客様との対話を何よりも大切にしています。」
Base-up 久保 塁