「親が施設に入って、実家が空き家になった」「親がまだ元気なうちに、家のことを整理しておきたい」——こうしたご相談が年々増えています。

親の家を売却するタイミングは、大きく分けて「相続してから売る」と「親が存命のうちに売る(生前売却)」の2つ。どちらが有利かは、税金・手続き・家族の事情によって異なります。この記事では、両方の選択肢を比較し、判断基準を整理します。

「相続してから売る」場合の流れと注意点

親が亡くなった後に不動産を相続し、その後売却する流れです。

手続きの流れ:

① 相続の発生(親の死亡)

② 遺産分割協議(誰が不動産を相続するか決める)

相続登記(名義変更)——2024年4月から義務化。取得を知った日から3年以内に登記が必要

④ 不動産の売却活動開始

⑤ 売却完了 → 売却代金の分配(必要に応じて)

注意点:

遺産分割協議がまとまらないリスク——きょうだい間で「売る・売らない」「金額の分配」で揉めるケースは非常に多い。協議がまとまらないと売却が長期間できなくなります。

相続税の申告期限(10ヶ月)——相続税の申告・納付は死亡から10ヶ月以内。不動産の売却が間に合わない場合、現金で相続税を納付する必要があります。

空き家期間の発生——相続手続きから売却完了まで、通常6ヶ月〜1年以上。その間の維持管理コストが発生します。

「被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除」——一定の条件を満たせば、相続後の売却でも3,000万円特別控除が使えます。条件は「昭和56年5月31日以前の建築」「相続開始から3年以内の売却」などです。

「生前に売る」場合の流れと注意点

親が存命のうちに、親自身が売主として不動産を売却する方法です。

手続きの流れ:

① 親本人が売却を決断

② 不動産会社に査定を依頼

媒介契約の締結(親本人が契約当事者)

④ 売却活動・内覧対応

詳しくは「内覧のポイント」をご覧ください。

⑤ 売買契約・引渡し

⑥ 売却代金が親の口座に入金

注意点:

親本人の意思能力が必要——認知症が進行して意思能力がないと判断されると、売買契約は無効になります。「まだ元気なうちに」が重要なポイントです。

マイホーム特例(3,000万円特別控除)が使える——親自身が住んでいた家(または住まなくなってから3年以内の家)を売却する場合、3,000万円特別控除が適用されます。相続後の控除より条件が緩く、確実に使えるのがメリットです。

売却代金は親の財産——売却代金は親の口座に入るため、子どもが使うには贈与の問題が生じます。親の施設費用や生活費に充てるのであれば問題ありません。

税金の比較 — どちらが有利か

税金の種類相続してから売る生前に売る
相続税不動産の評価額に応じて課税不動産は相続財産から外れる(現金として残っていれば課税対象)
譲渡所得税被相続人の居住用3,000万円控除(条件あり)マイホーム3,000万円控除(条件が緩い)
贈与税なし売却代金を子どもに渡すと贈与税がかかる可能性
登録免許税相続登記が必要不要(売却時の買主が負担)

← スクロールできます →

税金面では、多くのケースで「生前に売る」ほうが有利です。理由は:

3,000万円特別控除の適用条件が緩い(「住んでいた家」であれば基本的に適用可能)

② 相続財産を「不動産」から「現金」に変えることで、遺産分割がスムーズになる

③ 相続税の計算上、不動産の評価額と現金の金額が異なるため、ケースバイケースで有利・不利が変わる。税理士への相談を推奨します

認知症になると売却は極めて困難

親が認知症と診断され、意思能力がないと判断されると、不動産の売買契約は法的に無効になります。成年後見人を選任して売却する方法はありますが、家庭裁判所の許可が必要で、時間と費用がかかります。「まだ大丈夫」と思っているうちに手遅れになるケースは少なくありません。詳しくは「親が認知症になったら不動産はどうなる?」をご覧ください。

手続きの比較 — どちらが楽か

手続きの負担は「生前に売る」ほうが圧倒的に軽いです。

相続後の売却は、相続登記(2024年から義務化)、遺産分割協議書の作成、相続税の申告、その後の売却活動と、手続きが二重に発生します。相続人が複数いる場合は、全員の合意が必要になるため、さらに時間がかかります。

生前売却は、親本人(または委任を受けた家族)が通常の売却手続きを進めるだけです。相続関連の手続きは一切不要です。

家族関係への配慮

「親の家を売る」という話題は、家族間でデリケートな問題になることがあります。

よくあるトラブル:

・「実家を売るなんて、お父さんがかわいそう」——感情的な反対が出るケース

・「売却代金はどう分ける?」——きょうだい間の利害対立

・「親に売却の話をするのは失礼だ」——話題を切り出せないケース

解決のヒント:

・親本人の意思を最優先する。「売りたいか」「住み続けたいか」をまず確認

・感情論ではなく、数字で選択肢を比較する。「持ち続けた場合のコスト」と「売却した場合の手取り」を見せることで、冷静な議論ができます

・専門家(不動産会社・税理士・弁護士)を交えた場で話し合う。第三者がいることで、感情的な対立を避けやすくなります

福岡市での実務上のポイント

福岡市特有の事情として、以下のポイントがあります。

① 実家が郊外にあるケース: 福岡市の早良区南部・西区・城南区の一部には、昭和40〜50年代に開発された住宅地が多くあります。これらのエリアでは住民の高齢化が進み、売却需要が増加して買い手市場になりつつあるエリアもあります。早めの売却が有利な場合があります。

② 相続人が県外に住んでいるケース: 福岡市は転勤族が多く、相続人が東京・大阪など遠方に住んでいるケースが多い。遠方からの売却活動は負担が大きいため、信頼できる地元の不動産会社に任せることが重要です。

③ 再開発エリアの近くにある場合: 天神ビッグバンや博多コネクティッドの影響で地価が上昇しているエリアに実家がある場合は、「今の相場」で売却するメリットが特に大きい可能性があります。

よくある質問

Q. 親にどう切り出せばいいですか?

「家をどうする?」ではなく、「今の家の価値がいくらか、一度調べてみない?」という切り口がおすすめです。売却を前提にするのではなく、まず「情報を得る」ことから始めることで、抵抗感が和らぎます。査定は無料で、売却義務もありませんので、情報収集として活用してください。

Q. 親が老人ホームに入ったら、すぐに売るべきですか?

3,000万円特別控除を使うには「住まなくなってから3年以内の売却」が条件です。急ぐ必要はありませんが、3年というタイムリミットは意識しておくべきです。施設の入所費用に売却代金を充てたい場合は、早めの査定をおすすめします。

Q. きょうだい3人で相続する場合、不動産はどうやって分けますか?

不動産を3等分することはできないため、一般的には売却して現金を分ける(換価分割)か、一人が不動産を相続して他の二人に代償金を払う(代償分割)かのどちらかです。換価分割が最もトラブルが少ない方法です。

Q. 親が認知症の初期段階です。今のうちにできることはありますか?

意思能力が残っているうちに、以下の対策を検討してください。①家族信託の設定(信頼できる家族に不動産の管理・処分権限を移す)、②任意後見契約の締結、③遺言書の作成。いずれも専門家(弁護士・司法書士)への相談が必要です。

Q. 生前に売却した場合、売却代金に贈与税はかかりますか?

売却代金は親の財産です。親の口座に入金され、親が使う分には贈与税はかかりません。ただし、売却代金を子どもに渡す場合は贈与税の対象になります(年間110万円の基礎控除あり)。親の介護費用・生活費に充てるのであれば問題ありません。

「"親の家をどうするか"は、実は"親の老後をどう支えるか"の問題です。不動産の売却はゴールではなく、親のこれからの生活を支えるための手段。その視点で一緒に考えましょう」

Base-up 久保 塁