「今が売り時ですよ」——不動産会社に査定を依頼すると、ほぼ100%の確率でこの言葉が出てきます。地価が上がっているときは「高値で売れる今のうちに」。金利が上がりそうなときは「買い手がいなくなる前に」。どんな局面でも結論は「今すぐ売りましょう」です。

なぜ、いつでも「今が売り時」なのか。それは不動産会社にとって、売主が売却を決断してくれなければ仕事が始まらないからです。このページでは、不動産会社のポジショントーク(自社の利益のために偏った見解を述べること)の典型パターンを整理し、売主が冷静に判断するための視点を提供します。

ポジショントークとは何か

ポジショントークとは、自分の立場(ポジション)に有利になるように発言することです。証券会社が「この株は買いです」と言うとき、その会社がその株を大量に保有していれば、それはポジショントークです。

不動産会社の場合、「売り時です」と言えば売主が媒介契約を結んでくれる。媒介契約がなければ手数料収入はゼロ。つまり「今が売り時」という発言は、不動産会社にとって常に「正解」なのです。

もちろん、本当に「今が売り時」であるケースもあります。問題は、そうでないケースでも同じことを言われるため、売主には区別がつかないことです。

仲介と買取の選択肢

よくある6つのパターン

不動産会社の営業トークには、いくつかの典型パターンがあります。内容そのものが嘘というわけではなく、都合のよい情報だけを強調し、不都合な情報を省略するのが特徴です。

パターン① 「地価が上がっています」

地価公示や路線価のデータを見せて「今がピークかもしれません」と煽るパターン。しかし地価が上がっているからといって、あなたの物件が高く売れるとは限りません。地価と成約価格は連動しないことが多い。特にマンションでは、築年数・管理状態・階数の影響の方がはるかに大きく、地価の上昇分は成約価格に反映されにくいのが実態です。

パターン② 「金利が上がると買い手がいなくなる」

金利上昇局面でよく使われるトークです。確かに金利上昇は買い手の購買力を下げますが、金利が上がったからといって不動産取引がなくなるわけではありません。金利が高い時代にも家は売れていました。金利の影響を受けるのは主に住宅ローンを組む個人客であり、法人や資産家、キャッシュ購入者には影響が限定的です。

パターン③ 「このエリアは人気なので、今なら高く売れます」

事実として人気があっても、「今なら」という限定がポジショントークです。人気エリアは来年も人気である可能性が高い。むしろ再開発が進行中であれば、数年後の方が価値が上がることもあります。「今なら」の根拠が具体的に示されていなければ、急ぐ必要はありません。

パターン④ 「探しているお客様がいます」

「ちょうどこのエリアで探しているお客様がいるんです」という言葉は、最も古典的な営業トークの一つです。本当にその買い手がいるのかを確認する方法はほぼありません。仮にいたとしても、その買い手が適正な価格で購入してくれるかは別問題。「お客様がいるから早く」という理由で判断を急がされないようにしてください。

「探しているお客様がいます」のチラシ

ポストに入っている「このマンションを○○○万円で購入したいお客様がいます」というチラシ。これはほとんどの場合、実在の買い手がいるわけではなく、売却の相談を引き出すためのマーケティング手法です。反応した方に対して査定→媒介契約の獲得を目指すのが本来の目的。記載された金額で実際に売れることを保証するものではありません。

パターン⑤ 「税制が変わるから今のうちに」

3,000万円特別控除が廃止されるかもしれない」「来年から税率が上がる」といった税制変更を理由にした煽りです。税制改正は確かにあり得ますが、大きな控除制度が突然廃止されることは極めて稀。多くの場合、経過措置が設けられます。「かもしれない」レベルの情報で数千万円の資産処分を急ぐべきではありません。

パターン⑥ 「築年数が1年経つごとに価値が下がります」

これは事実ではありますが、だから今すぐ売るべきという結論にはなりません。建物の減価は緩やかであり、1年で劇的に価値が下がることはまれです(築20年を超えると減価もかなり緩やかになります)。むしろ、適切なメンテナンスをして良い状態で売りに出す方が、焦って売るよりも手取りが多くなることがあります。

なぜポジショントークが横行するのか

不動産会社がポジショントークをする背景には、業界の報酬構造があります。

不動産仲介の売上は完全な成果報酬です。売主が「売らない」と判断すれば、どれだけ時間をかけて相談に乗っても、査定書を作っても、1円の収入にもなりません。営業マンには月次の売上ノルマがあり、媒介契約を取れなければ評価に直結します。

このような構造の中で、「今は売り時ではないかもしれません。もう少し待ちましょう」と正直に言える営業マンがどれだけいるでしょうか。仕組みが「売らせること」にインセンティブを与えている以上、ポジショントークは個人の誠実さの問題ではなく、構造の問題です。

一括査定サイトの問題

一括査定サイト経由の相談では、ポジショントークがさらに強くなる傾向があります。複数の不動産会社が同時に競争するため、「うちに任せてほしい」と思わせるために高い査定額を提示し、「今が売り時です、この金額で売れます」と言いやすくなるからです。結果として、媒介契約後に値下げを繰り返す——という展開が起きやすくなります。

Consultation

「売るべきか」から
一緒に考えます。

Base-upの査定は、売却を前提としません。
「今は持っておいた方がいい」もお伝えします。

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冷静に判断するための5つのチェックポイント

ポジショントークに流されず、自分にとっての「本当の売り時」を見極めるための視点を整理します。

チェック①:「売る理由」は自分の中にあるか

住み替え、相続整理、離婚、資金需要、老朽化——売却を検討する理由が自分のライフイベントや状況に基づいているなら、それは正当な売却動機です。しかし「不動産会社に『今が売り時』と言われたから」が唯一の理由なら、一度立ち止まってください。

チェック②:根拠はデータか、印象か

「上がっています」「下がります」と言われたら、具体的なデータを見せてもらうようにしましょう。地価公示、レインズの成約事例、周辺の売り出し事例。数字で確認できない主張は、印象操作の可能性があります。

チェック③:反対意見を聞いたか

1社だけの意見で判断するのは危険です。最低でも2〜3社の意見を聞き、「売らない方がいい」という見解がないかを確認してください。全社が「今すぐ売るべき」と言う場合でも、理由が同じかどうかを比較してみてください。理由がバラバラなら、それぞれのポジションに都合のよい理屈をつけているだけかもしれません。

チェック④:「売らなかった場合」のシナリオを描いたか

売却を検討するとき、多くの人は「売った場合」のことしか考えません。「売らなかった場合、3年後に自分はどうなっているか」を具体的に想像してみてください。持ち続けるコスト(固定資産税管理費、修繕費)と、持ち続けるメリット(住居、賃貸収入、値上がり期待)を天秤にかける。この作業をしたうえでの売却判断であれば、ポジショントークに振り回されることはありません。

チェック⑤:急かされていないか

「今月中に決めていただければ」「この買い手を逃すと次はいつになるか分かりません」——期限を切って判断を急がせるのは、セールスの基本テクニックです。不動産は数千万円の資産です。1週間・2週間の判断の遅れが致命的になることは、ほとんどありません。急かされたときこそ冷静になってください。

データで確認する方法

営業トークを鵜呑みにせず、自分でデータを確認する方法をいくつかご紹介します。

地価の推移

国土交通省の「地価公示」「都道府県地価調査」は誰でも無料で閲覧できます。「土地総合情報システム」で検索すれば、過去の地価推移をエリアごとに確認可能です。「地価が上がっている」と言われたら、何年前と比較してどの程度上がっているのかを自分の目で見てください。

周辺の成約事例

同じく「土地総合情報システム」では、過去の不動産取引価格(実際に成約した価格)を調べることができます。不動産ポータルサイトに掲載されている価格は「売り出し価格」であり、実際の成約価格はそれより低いのが一般的です。売り出し価格と成約価格の違いを理解しておくことが重要です。

住宅ローン金利の動向

「金利が上がる」と言われたら、住宅金融支援機構の「フラット35」の金利推移を確認しましょう。変動金利は各金融機関のサイトで確認できます。金利の動きはゆるやかであり、「来月突然2%上がる」といったことは起きません。

データもまた「切り取り」であることを忘れない

不動産会社が提示するデータは事実であっても、都合のよい期間・エリア・物件種別だけを切り取っている可能性があります。「過去5年で30%上昇」と言われたら、「過去10年では?」「この町丁目だけでなく区全体では?」と視野を広げてみてください。

「売らない方がいい」と言える会社を選ぶ

ポジショントークに対する最大の防御は、「売らない方がいいですよ」と正直に言ってくれる不動産会社を選ぶことです。

「そんな会社があるのか」と思われるかもしれません。確かに、売上を最優先する会社では難しいでしょう。しかし、長期的な視点で経営している会社であれば、目先の1件の手数料よりも、「あのとき正直に言ってくれた」という信頼が将来の紹介につながることを理解しています。

Base-upでは、査定のたびに「売った場合」と「持ち続けた場合」の両方のシナリオをお伝えしています。金銭的には売却が有利でも、ご本人の生活状況を考えると「あと2〜3年は持っておいた方がいい」とお伝えすることもあります。

不動産会社を選ぶ際に、試しにこう聞いてみてください。「今、売らない方がいいケースってどんな場合ですか?」。この質問に具体的に答えられる会社は、ポジショントークではなくあなたの状況を見て判断してくれる会社である可能性が高いと言えます。

「不動産会社にとって『今は売らない方がいい』と言うのは、自分の売上を一時的にゼロにする行為です。でもそのお客様が2年後に本当に売ると決めたとき、誰に依頼しますか。目先の1件を追うより、正直でいる方が結局は仕事が増える。そう信じてやっています」

Base-up 臼杵 昇平