「自分が元気なうちに、不動産のことを整理しておきたい」——そう考える60〜70代の方が増えています。終活としての不動産売却は、家族への負担を減らすだけでなく、自分自身の老後資金を確保する「攻め」の判断です。この記事では、終活と不動産の整理について解説します。

なぜ「元気なうちに」売るべきなのか

不動産の売却には、本人の判断能力意思表示が必要です。つまり、「売りたい」と思ったときに、自分で売却の判断と手続きができる状態でなければなりません。

加齢とともに判断能力が衰えると、売却手続きが困難になります。認知症を発症した場合は、成年後見人を選任しなければ売却できず、手続きに半年〜1年以上かかるケースもあります。

元気なうちに売却すれば、自分の意思で価格を決め、売却代金の使い道も自分で決められるのです。

認知症になると不動産は売れなくなる

認知症により判断能力が低下すると、不動産の売買契約は「意思能力なし」として無効になります。家族が代わりに売却することもできません。

この場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立て、後見人が本人に代わって売却手続きを行います。ただし、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可も必要であり、手続きは煩雑で時間がかかります。

認知症リスクは他人事ではありません

65歳以上の約5人に1人が認知症になるとされています(内閣府推計)。70歳を過ぎてから「そのうち売ろう」と先延ばしにするのは、リスクが高い判断です。

終活としての売却と相続対策の違い

観点終活としての売却相続対策としての保有
目的老後資金の確保・家族の負担軽減相続税の節税・資産の承継
タイミング本人が元気なうちに実行相続発生(死亡)後に効果
メリット現金化して使途を自由に決められる不動産の評価額が現金より低く、節税になる
デメリット売却益に譲渡所得税がかかる場合がある空き家の維持管理が必要・分割が難しい

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相続税の観点だけを見れば、不動産は現金よりも評価額が低いため「持っているほうが節税になる」と言われます。しかし、それは相続人が不動産を必要としている場合の話です。誰も住まない家を残しても、維持費と管理の手間が残るだけです。

売却のタイミング — 70歳がひとつの目安

終活としての不動産売却に「この日までに売らなければならない」という期限はありません。しかし、70歳をひとつの目安として考える方が増えています。

その理由は、(1) 70歳を超えると認知症リスクが高まる (2) 体力・気力があるうちに引っ越し作業ができる (3) 売却代金を老後の生活費や旅行・趣味に使える年数が長い、の3点です。

「まだ早い」と感じるかもしれませんが、売却を決めてから引き渡しまでに半年〜1年かかることを考えると、検討を始めるのは早ければ早いほうがよいのです。

売却後の住まいの選択肢

自宅を売却した後の住まいとして、主に以下の選択肢があります。

選択肢特徴向いている人
コンパクトなマンションに住み替えバリアフリー・管理の手間なし自立した生活を続けたい人
サービス付き高齢者向け住宅見守り・食事サービスありある程度の支援が必要な人
子世帯の近くに賃貸家族の近くで安心感がある子どもが近くに住んでいる人
リースバック売却後も同じ家に賃貸で住み続ける引っ越しをしたくない人

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リースバックは、自宅を不動産会社に売却した後、賃貸借契約を結んで同じ家に住み続ける仕組みです。売却代金を受け取りつつ、引っ越しの必要がないのが最大のメリットですが、賃料が割高になるケースがある点に注意が必要です。

家族との話し合い方

終活としての不動産売却で最も大切なのが、家族との事前の話し合いです。子世帯に相談せずに売却を進めると、「なぜ相談してくれなかったのか」とトラブルになることがあります。

話し合いのポイントは以下のとおりです。

・ 実家を引き継ぐ意向がある子どもがいるか確認する

・ 維持費(固定資産税・修繕費・保険料)の年間コストを共有する

・ 売却代金の使い道(老後資金・介護費用の備え)を説明する

・ 相続時の分割方法についても触れておく

話し切れなくても大丈夫

一度の会話ですべてを決める必要はありません。「家のことを考え始めた」と伝えるだけでも、家族の心構えにつながります。

売却しない場合に備える方法

「今すぐ売却する必要はないが、将来に備えておきたい」という場合は、以下の準備をしておくと安心です。

1. 家族信託を設定する——家族信託とは、信頼できる家族に不動産の管理・処分を委託する仕組みです。認知症になった後でも、受託者(信託を受けた家族)が売却手続きを行えます。

2. 任意後見契約を結ぶ——判断能力があるうちに、将来の後見人を自分で選んでおく制度です。

3. エンディングノートに意向を記す——法的拘束力はありませんが、不動産の処分に関する希望を書き残しておくと、家族が判断しやすくなります。

福岡市での終活売却事例

福岡市では、郊外の一戸建てを売却して天神・博多駅近くのコンパクトマンションに住み替えるケースが増えています。利便性が高く、医療機関も充実しているため、老後の生活基盤として選ばれています。

また、子世帯が東京や大阪に住んでいる場合、福岡市の実家を売却して子世帯の近くに引っ越すケースもあります。いずれの場合も、まずは実家の資産価値を知ることが第一歩です。

よくある質問

Q. 終活で不動産を売却すると税金はかかりますか?

居住用財産を売却して利益が出た場合、3,000万円特別控除が使えます。利益が3,000万円以下であれば、所得税はかかりません。所有期間が10年を超えていれば、さらに軽減税率の特例も利用できます。

詳しくは「3,000万円特別控除ガイド」をご覧ください。

Q. 家族信託と成年後見制度の違いは何ですか?

家族信託は本人が元気なうちに設定し、財産の管理・処分を家族に委託する仕組みです。成年後見制度は判断能力が低下した後に裁判所が後見人を選任する制度です。家族信託のほうが柔軟性が高く、手続きも迅速です。

詳しくは「家族信託と不動産売却」をご覧ください。

Q. リースバックと通常の売却、どちらが得ですか?

金銭面だけで比較すると、通常の売却のほうが高い価格で売れるケースが多いです。リースバックの売却価格は相場の70〜80%程度になることが一般的です。ただし、引っ越し不要という利便性を重視する場合はリースバックも有効な選択肢です。

詳しくは「リースバックの仕組み」をご覧ください。

「"終活"というと後ろ向きに聞こえますが、不動産の整理は"自分の人生を自分で決める"という前向きな行動です。まずは今の家がいくらで売れるのかを知るところから始めてみてください。」

Base-up 久保 塁