物件概要
- 種別
- 一戸建て(築35年・木造2階建て)
- 所在地
- 福岡市南区(西鉄大橋駅 徒歩14分)
- 面積
- 土地:約180㎡ / 建物:約120㎡
- 名義
- 共有名義(長男1/3・次男1/3・三男1/3)
- 相続登記
- 完了済み(相談時点)
- 担当
- 蒲池
お父様が亡くなり、福岡市南区の実家を兄弟3人で相続したKさんご兄弟。長男のK様(60代)は福岡在住ですが、次男は大阪、三男は東京に住んでいます。「誰も住まない実家を、3人でどうするか」——相続からすでに2年が経ち、固定資産税だけが毎年出ていく状態でした。
このページでは、3人の意見が割れかけた共有不動産を、全員が納得する形で売却できるまでの経緯をご紹介します。
3人の「温度差」という最大の壁
共有不動産の売却で最も難しいのは、全員の合意を得ることです。K様ご兄弟の場合、3人の考えは最初バラバラでした。
長男(福岡在住・60代)——「早く売りたい。管理が負担だし、固定資産税ももったいない。実家に思い入れはあるが、現実的に考えるべき」
次男(大阪在住・50代後半)——「売るのは賛成だが、安売りはしたくない。不動産の知識はないので、任せきりにされるのは不安」
三男(東京在住・50代)——「正直、まだ売りたくない。いずれ帰ることがあるかもしれないし、お父さんが建てた家を手放すのは寂しい」
長男のK様が当社に相談に来られたとき、「弟2人をどう説得すればいいか」というのが最初のご質問でした。
「説得」ではなく「共有」
私たちがK様にお伝えしたのは、「説得しようとしないでください」ということでした。共有名義の不動産売却は、誰かが誰かを説得する構図になった瞬間に、感情的なもつれが生まれます。大切なのは、全員が同じ情報を持った上で、それぞれが自分の判断として「売却に合意する」こと。私たちの役割は、その「共有すべき情報」を揃えることでした。
全員に同じ情報を届ける
当社では、3人全員に同じ資料を同時に共有することから始めました。
共有した情報
① 現在の維持コスト——固定資産税(年間約15万円)、火災保険(年間約6万円)、最低限の管理費用(草刈り・通水など月1回、年間約12万円)。住んでいなくても年間約33万円のコストが発生している事実を、具体的な数字で示しました。
② 査定額と根拠——周辺の成約事例5件を提示した上で、土地としての評価額は約2,600〜2,800万円、建物は築35年のため資産価値はほぼゼロと説明しました。近隣の類似物件(土地面積・接道条件)の実際の成約データをお見せすることで、数字の信頼性を担保しました。
③ 「持ち続けた場合」のシミュレーション——5年間保有した場合の維持コスト累計は約165万円。さらに築40年になると建物の解体が必要になる可能性があり、解体費用は150〜200万円と見込まれること。また、特定空き家に指定されるリスクについても説明しました。
④ 売却した場合の手取り試算——3人それぞれの手取り額を試算。相続した不動産の取得費加算の特例が使える期限(相続税の申告期限から3年以内)についても確認しました。
売却時の手取り試算(1人あたり)
三男の「心の整理」
長男と次男は比較的早い段階で売却に同意しました。問題は、「まだ売りたくない」と言っていた三男です。
担当の蒲池は、三男にも直接お会いして(東京出張時にお時間をいただきました)、同じ資料を使って説明しました。そのとき、三男がおっしゃったのは——
「数字の話は分かりました。でも、あの家はお父さんが35年前に建てた家で、僕が育った場所なんです。売ってしまったら、もう帰る場所がなくなる気がして」
三男(東京在住・50代)蒲池が伝えたのは、こうでした。「お気持ちはよく分かります。ただ、今の状態は、帰る場所を残しているのではなく、維持費を払い続けている状態です。築35年の木造住宅は、人が住まなくなると急速に劣化します。あと5年経てば、お父様が建てた家は修繕もできない状態になるかもしれません。それよりも、今の状態の良いうちに売却し、その資金をご自身やお子さんのために使う方が、お父様の想いに沿うのではないでしょうか」
三男が売却に同意されるまでに、最初の相談から約1ヶ月。急かすことなく、三男の気持ちの整理を待ったことが、後の「全員が納得する売却」につながりました。
売却の経緯
長男から相談・現地査定(9月)
現地調査、査定、維持コスト試算を実施。長男に全体の流れと費用を説明。次男・三男への連絡方法を相談し、資料を共有。
3人全員の合意形成(9月〜10月)
次男にはオンラインで、三男には対面で説明。全員に同じ資料を共有。三男の心の整理に約1ヶ月。10月末に全員の売却合意を確認。
測量・媒介契約(11月)
境界確定のための測量を依頼(約3週間)。3人連名での専任媒介契約を締結。売り出し価格は2,780万円に設定。
販売活動・購入申込(12月〜1月)
古家付き土地として販売開始。建築条件なしの土地として人気が高く、1ヶ月で5件の問い合わせ。うち建築会社経由で30代ご夫婦から2,680万円の購入申込。3人で協議の上、承諾。
契約・決済(2月〜3月)
売買契約は長男が代理人として署名(次男・三男は委任状で対応)。決済日には売却代金を3等分し、各自の口座に振込。登記手続きも完了。
売却結果
2,680万円
1人あたり手取り 約830万円
相談から決済まで約6ヶ月
この事例のポイント
① 全員に「同じ情報」を同時に共有した
共有名義の売却では、情報格差が不信感の原因になります。誰か1人だけが詳しく、他の共有者は「よく分からないまま進んでいる」という状態は、後からトラブルになりやすい。全員に同じ資料を、同時に共有することで、対等な立場での意思決定を可能にしました。
② 感情に寄り添いながら、事実を伝えた
三男の「売りたくない」という気持ちは、否定すべきものではありません。感情は尊重しながら、事実(維持コスト・劣化リスク・税制の期限)を丁寧に伝えることで、ご本人の中で納得感が生まれました。「説得された」ではなく「自分で判断した」と思える状態を作ることが大切です。
③ 委任状で遠方の共有者の負担を軽減した
共有名義の売却では、原則として全員が契約書に署名する必要がありますが、委任状を使うことで、遠方の共有者が何度も福岡に来る必要がなくなります。このケースでは、長男を代理人として手続きを進めることで、次男・三男の時間的・金銭的負担を最小限に抑えました。
共有名義の売却は「早い方がいい」
時間が経つほど状況は複雑になります。共有者の一人が認知症になれば売却が極めて困難に。共有者が亡くなれば、その持分がさらにその家族に相続され、関係者の数が増えて合意形成がますます難しくなります。3人で済む今のうちに動くことが、最も合理的な判断です。
売却後のKさんご兄弟
「3人とも納得して売れたことが一番よかった。弟たちとは今も仲がいいし、『あのとき揉めなくてよかったね』と話しています。蒲池さんが三男に直接会いに行ってくれたのが大きかった。電話やメールだけでは、弟の気持ちは動かなかったと思います」
長男 K様(60代・福岡在住)