この記事の内容
家を売って損が出たら、給料から引かれた税金が戻ってくる可能性があります。住み替えでマイホームを売却し、買った時より安く売れた場合。サラリーマンなら年間の源泉徴収から数十万〜100万円以上が還付されるケースもあります。この制度を使えるかどうか、3分で判定できます。
この仕組みが「損益通算」と「繰越控除」です。知らないと数十万〜数百万円の還付を受け損ねることもあります。この記事では、対象となる条件から計算例、確定申告の手順まで、わかりやすく解説します。
1. 「売却損」とは何か
売却損(譲渡損失)とは、不動産の売却価格が取得費と譲渡費用の合計を下回った場合に生じる損失のことです。
売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)= マイナス → 譲渡損失
※取得費が不明な場合は売却価格の5%で計算(概算取得費)
たとえば、3,500万円で購入したマンションが築20年を経て2,500万円でしか売れなかった場合、減価償却分を考慮しても数百万円の損失が生じることがあります。
ポイント
不動産の売却損は、原則として給与所得など他の所得と相殺できません(分離課税のため)。ただし、マイホームの売却損に限っては、特例で損益通算が認められています。
2. 損益通算で税金が戻る仕組み
損益通算とは、ある所得で生じた損失を、他の所得の利益と相殺する仕組みです。マイホームの売却損については、給与所得や事業所得から差し引くことが認められているため、所得税・住民税が減額(または還付)されます。
たとえば年収700万円(給与所得520万円)の方が、マイホーム売却で800万円の損失を出した場合、その年の給与所得520万円と相殺してその年の所得税がほぼゼロに。さらに引ききれなかった280万円は翌年以降に繰り越せます。
損益通算と繰越控除の違い
「損益通算」は売却した年に他の所得と相殺すること。「繰越控除」は1年で引ききれなかった損失を翌年以降(最長3年)に繰り越すこと。セットで使える制度です。
3. 2つの特例 — マイホームの売却損
マイホームの売却損で損益通算を使える特例は2種類あります。どちらを使えるかは「買い換えるかどうか」「ローン残債があるかどうか」で決まります。
| 特例 | 条件 | 正式名称 |
|---|---|---|
| 特例①買い換えあり | マイホームを売って、新しい住居を購入する | 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 |
| 特例②ローン残債あり | 売却価格がローン残高を下回る(買い換え不要) | 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 |
両方に共通する基本要件は以下の通りです。
共通要件:
・売却する不動産が「マイホーム」(居住用財産)であること
・所有期間が売却した年の1月1日時点で5年を超えていること
・売却の相手が親族など特別な関係者でないこと
・売却した年の合計所得金額が3,000万円以下であること(繰越控除を適用する各年)
・他の譲渡所得の特例(3,000万円特別控除など)を併用していないこと
4. 特例①:買い換え時の損益通算
マイホームを売却して新居を購入する場合に使える特例です。住み替えを検討中の方にとって最も身近な制度です。
適用条件
共通要件に加えて、以下を満たす必要があります。
・売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を取得すること
・新居の床面積が50㎡以上であること
・新居を取得した年の翌年12月31日までに入居すること
・新居について10年以上の住宅ローンがあること
ポイント
損失額に上限はありません。損失全額を損益通算の対象にできます。たとえば1,500万円の損失なら、1,500万円すべてを給与所得から差し引けます。
5. 特例②:ローン残債がある場合の損益通算
買い換えをしない場合でも、売却価格がローン残債を下回っている(オーバーローン状態)場合に使える特例です。
適用条件
共通要件に加えて、以下を満たす必要があります。
・売買契約日の前日時点で住宅ローンの残高があること
・売却価格がローン残高を下回っていること
損益通算できる金額に上限がある
特例①と異なり、損益通算できる金額にはキャップがあります。
損益通算の上限 = ローン残高 − 売却価格
※譲渡損失全額ではなく、ローン残高と売却価格の差額が上限
たとえば、取得費3,500万円の物件をローン残高2,800万円・売却価格2,500万円で売った場合、譲渡損失は約1,000万円でも、損益通算できるのは2,800万円−2,500万円=300万円が上限です。
6. 具体例で見る — いくら戻ってくるか
ケース:住み替え(特例①)
シミュレーション
年収700万円(給与所得520万円)のAさん
築22年のマンションを2,200万円で売却・譲渡損失800万円
| 年度 | 繰越損失 | 相殺する所得 | 還付概算 |
|---|---|---|---|
| 売却年 | 800万円 | ▲520万円 | 約55万円 |
| 翌年 | 280万円 | ▲280万円 | 約30万円 |
| 合計 | 約85万円 |
2年間の還付合計(所得税+住民税)
約85万円
所得税に加えて住民税も減額されます。住民税は翌年度の負担が軽くなるため、実感するまでに少しタイムラグがあります。
注意
上記は概算です。実際の還付額は扶養控除・社会保険料控除・医療費控除などの各種控除によって変動します。正確な金額は税理士にご確認ください。
7. 繰越控除 — 1年で引ききれない場合
売却損が大きく、その年の所得だけでは引ききれない場合、翌年以降3年間にわたって繰り越すことができます。つまり、損益通算と合わせて最長4年間にわたって税金を軽減できる仕組みです。
繰越控除の条件
・繰越控除を受ける各年の合計所得金額が3,000万円以下であること
・毎年、確定申告を行うこと(損失が残っていなくても、繰越期間中は申告が必要)
3年間の繰越で合計数百万円の還付も
譲渡損失が1,500万円で給与所得が500万円の場合、3年間で1,500万円を使い切り、合計で100万円以上の所得税+住民税が還付されるケースもあります。
8. 確定申告の手順と必要書類
損益通算の特例を使うには、売却した翌年の2月16日〜3月15日に確定申告を行う必要があります。損失が出ていても申告しなければ還付は受けられません。
必要書類
| 書類 | 入手先 |
|---|---|
| 確定申告書B | 税務署 or e-Tax |
| 譲渡所得の内訳書 | 税務署 or 国税庁サイト |
| 売買契約書(売却時・購入時) | お手元の控え |
| 登記事項証明書 | 法務局 |
| 住民票(売却時の住所確認用) | 市区町村 |
| ローン残高証明書(特例②の場合) | 金融機関 |
| 新居の売買契約書・ローン残高証明書(特例①の場合) | お手元の控え・金融機関 |
| 源泉徴収票 | 勤務先 |
手続きの流れ
書類を準備する — 売却時の契約書・領収書と、購入時の契約書を揃えます。取得費の計算に必要です。
譲渡損失を計算する — 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)で譲渡損失額を算出。
確定申告書を作成する — 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えば、画面の案内に沿って入力できます。
e-Taxまたは税務署で提出 — e-Taxなら自宅から提出可能。マイナンバーカードがあればスマホでも対応。
還付を受ける — 通常、申告から1〜2ヶ月で指定口座に振り込まれます。
繰越控除中は毎年申告が必要
翌年以降に損失を繰り越す場合、損失が残っている年は毎年確定申告が必要です。1年でも申告を忘れると、その時点で繰越控除の権利を失います。
9. よくある誤解と注意点
誤解①「投資用マンションの損失も通算できる」
この特例が使えるのはマイホーム(居住用財産)に限られます。収益物件や別荘、事業用の不動産は対象外です。投資用物件の売却損は、原則として不動産所得(家賃収入)と通算できますが、給与所得との通算はできません。
誤解②「売却損が出たら自動的に還付される」
確定申告をしなければ還付は受けられません。「損が出たのだから何もしなくていい」と思って申告しない方がいますが、これは大きな損失です。
誤解③「3,000万円特別控除と併用できる」
損益通算の特例と3,000万円特別控除は併用できません。ただし、売却損が出ている時点で譲渡益はありませんので、3,000万円特別控除を使う場面自体がないのが通常です。
注意:所有期間5年超の要件
所有期間の計算は「売却した年の1月1日時点」で判定します。実際に5年以上住んでいても、判定日時点で5年以下になるケースがあります。たとえば2020年4月に購入し、2025年3月に売却すると、2025年1月1日時点では「4年9ヶ月」の所有期間と判定されます。
判定ミスに注意
所有期間5年超の要件を満たさないと、特例を一切使えません。売却時期を数ヶ月ずらすだけで数十万円の還付が受けられるケースもあるため、事前に確認しましょう。
10. Base-upでは税金シミュレーションも無料
「売ったら損が出そう。でもいくら税金が戻るかわからない」——Base-upでは、査定と同時に税金の概算シミュレーションもお出ししています。
売却価格の見通しだけでなく、「売った場合の手残り」「税金の還付見込み」まで含めた総合的な判断材料をお伝えします。とくに住み替えを検討中の方は、新居の購入計画とセットで考えることが大切です。
税務の専門的な判断が必要な場合には、不動産売却の確定申告に慣れた提携税理士をご紹介しています。
「損だから売らない」の前に
含み損を抱えたままローンを払い続けるより、損益通算で税金を取り戻しながら売却した方が合理的なケースもあります。売却するかどうか迷っている段階でも、ご相談いただけます。
