親が施設に入ったら、実家は「空き家」になります。そして空き家は放置するほど価値が下がります。「親が戻るかもしれないから」と手をつけずにいる間に、建物は劣化し、固定資産税は払い続け、3,000万円特例の期限(住まなくなってから3年目の年末)は近づいていきます。

売却すれば施設費用に充てられる。でも、親が帰りたいと言ったら? 賃貸に出せば収入になる。でも管理は誰がする? そのまま残しておけば安心。でも、固定資産税や維持費はかかり続ける。

この記事では、施設入所に伴う実家の「売却・賃貸・維持」3つの選択肢を、費用面・感情面・実務面から整理します。「正解」ではなく「判断基準」をお伝えすることが、この記事の目的です。

3つの選択肢を比較する

まず全体像を把握しましょう。3つの選択肢のメリット・デメリットを一覧にします。

売却

メリット: まとまった資金を確保できる。固定資産税・維持費から解放される。管理の手間がゼロになる。
デメリット: 一度売却すると元に戻せない。親の心理的な抵抗が大きい場合がある。

賃貸

メリット: 毎月の家賃収入が施設費用の一部を賄える。物件を手放さずに済む。
デメリット: 空室リスク。管理の手間と費用。入居者トラブル。築古物件はリフォーム費用が高額になることも。

維持(空き家のまま)

メリット: いつでも戻れる安心感。判断を先送りにできる。
デメリット: 固定資産税・火災保険・管理費が毎年かかる。建物の劣化が進む。防犯・近隣対応の負担。

介護施設パンフレットと実家の鍵

選択肢① 売却 — 施設費用の確保と心理的な区切り

最大のメリット:まとまった資金の確保

介護施設の費用は、有料老人ホームの場合で月額15〜30万円、入居一時金が0〜数百万円。特別養護老人ホーム(特養)であれば月額8〜15万円程度ですが、入所待ちが長いのが現状です。

実家を売却すれば、数百万〜数千万円のまとまった資金が手に入ります。この資金を施設費用に充てることで、ご本人の施設選びの幅が広がり、ご家族の経済的な負担も軽減されます。

注意点:認知症と売却の関係

認知症が進むと売却できなくなる

不動産の売却には所有者本人の意思能力が必要です。認知症が進行して判断能力が低下すると、法的に売買契約を結ぶことができなくなります。この場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる必要があり、手続きに数ヶ月〜半年、費用も数十万円かかります。「いつか売ろう」と思っているうちに売れなくなるリスクがある点は、早めに認識しておくべきです。

税金面:3,000万円特別控除が使えるか

マイホーム(居住用財産)の売却では3,000万円の特別控除が使えます。ただし、ご本人が施設に入所してから3年目の年末までに売却しないと、この特例が使えなくなります。「相続した空き家の3,000万円控除」という別の制度もありますが、条件が厳しいため、ご本人が存命のうちに売却を検討する方が税制上は有利なケースが多いです。

選択肢② 賃貸 — 収入は得られるが手間もかかる

家賃収入で施設費用を賄うイメージ

福岡市内の一戸建ての場合、築30年程度でも立地によっては月額6〜12万円程度の家賃が見込めます。施設費用の一部を家賃収入で賄えれば、資産を手放さずに済むという選択肢です。

現実的に考えるべきコスト

項目目安
リフォーム費用賃貸に出すための最低限の修繕100〜300万円
管理委託費家賃の5〜8%が相場月0.3〜1万円
固定資産税引き続き所有者が負担年8〜20万円
修繕積立設備の故障・劣化対応年5〜15万円
空室期間の損失入居者が見つかるまで1〜3ヶ月分

← スクロールできます →

特に築古の一戸建ては、入居者が退去するたびに修繕費が発生するため、表面上の利回りほど手残りは多くありません。遠方にお住まいのご家族が管理するのは負担が大きく、管理会社への委託が前提になります。

選択肢③ 維持 — 安心感の裏に積み上がるコスト

「親がいつか帰ってくるかもしれない」「思い出のある家を手放したくない」。これらは自然な感情です。しかし、空き家として維持し続けることには、想像以上のコストが伴います。

維持コスト年間目安
固定資産税・都市計画税8〜20万円
火災保険2〜5万円
水道・電気の基本料金3〜5万円
庭木の手入れ・清掃5〜10万円
交通費(定期的な見回り)数万円〜

← スクロールできます →

合計すると、年間20〜40万円程度のコストが発生します。5年間維持すると100〜200万円。この間、建物は確実に劣化し、資産価値は下がっていきます。

特定空家」に指定されるリスク

管理が行き届かず老朽化した空き家は、自治体から「特定空家」に指定される場合があります。指定されると固定資産税の住宅用地の軽減措置(最大1/6)が外れ、税額が最大6倍に跳ね上がります。福岡市でも特定空家の指定件数は年々増加しています。

この記事に近い相談窓口

施設入所に伴う実家の処分について 親の介護施設入所で自宅をどうするかお悩みの方へ

費用シミュレーション — 5年間の収支比較

福岡市南区・築30年・4LDKの一戸建て(評価額1,800万円)を例に、5年間の収支を比較してみましょう。

項目 売却 賃貸 維持
初期収入/支出 +1,600万円手取り概算 −200万円リフォーム費 0円
5年間の収入 +360万円月6万×空室率考慮
5年間の支出 0円 −120万円税金・管理・修繕 −150万円税金・保険・管理
5年間の収支合計 +1,600万円 +40万円 −150万円

← スクロールできます →

数字だけを見れば売却が圧倒的に有利です。ただし、これはあくまで経済合理性だけの比較。実際の判断では、ご本人の意向、ご家族の感情、将来の不確実性など、数字に表れない要素も大きく影響します。

感情の問題 — 「実家を売る罪悪感」とどう向き合うか

施設入所に伴う不動産売却で、もっとも大きなハードルは「費用」ではなく「感情」であることが少なくありません。

「親が大切にしてきた家を売るのは親不孝ではないか」「親が悲しむのではないか」。こうした罪悪感は、多くの方が抱えています。

Base-upの現場から

「家を売ったお金で、いい施設に入れたよ」

実際にお手伝いしたケースでは、売却後にこうおっしゃる方が多いです。実家を売却して得た資金で、より良い施設を選ぶことができた。結果として、ご本人の生活の質が上がった。「売却」は家族を裏切る行為ではなく、ご本人の暮らしを守るための前向きな判断です。

もちろん、売却しないという判断も正解です。大切なのは、感情だけでも、数字だけでもなく、両方を見た上で納得して決めることです。

判断のためのチェックリスト

人生の転機と住まい

以下のチェックリストで、ご自身の状況を整理してみてください。

ご本人の意思確認はできているか
認知症の進行度合いによっては、意思確認が困難になります。可能な限り早い段階でご本人の希望を聞いておくことが重要です。
施設費用の見通しは立っているか
年金と貯蓄で施設費用が賄えるのか、不動産の売却資金が必要なのか。まず施設費用の試算が先です。
ご家族間で方針は共有できているか
兄弟姉妹間で意見が割れることが多いテーマです。全員が同じ情報を持った上で話し合うことが、後のトラブルを防ぎます。
3,000万円特別控除の期限は確認したか
施設入所から3年目の年末が期限。過ぎると税負担が大きく変わる可能性があります。
空き家として維持するコストを把握しているか
「とりあえず置いておく」にもお金がかかります。5年間の維持コストを試算した上で判断を。
不動産の現在の価値を知っているか
「なんとなく○○万円くらい」ではなく、正確な査定を受けることで判断の精度が上がります。

まず「知る」ことから始めてください

売却を決める必要はありません。まず実家の現在の価値を知り、売却した場合の手取り額を把握する。その情報があるだけで、家族会議の質がまったく変わります。Base-upでは「売るかどうか決まっていない」段階でのご相談を歓迎しています。

なお、施設費用の捻出を急ぐ場合は、仲介だけでなく不動産買取も選択肢のひとつです。買い手を探す期間がないぶん、早期の現金化が可能になります。