「売っても損しか出なかったのに、税金の申告が必要なの?」――福岡市で不動産を売却されたお客様からよくいただく質問です。結論からいうと、売却で損失が出た場合は確定申告が不要なことも多いですが、損益通算繰越控除の特例を使えば税負担を大きく減らせる年があります。一方で、どれだけ損しても何もできない年もあります。このルールを知っているかどうかで、手元に残るお金が数十万〜数百万円変わることもあるのです。

不動産売却の損失はなぜ「分離課税」が問題になるのか

不動産を売って得た利益(または損失)は、給与や事業収入などとは別の「譲渡所得」として計算します。日本の所得税では、この譲渡所得は原則として分離課税といって、他の所得と切り離して計算するルールになっています。

なぜこれが問題になるかというと、給与所得などと「合算して計算できない(=損益通算できない)」のが原則だからです。たとえば不動産売却で500万円の損失が出ても、給与所得1,000万円と相殺して税金を減らすことは、原則としてできません。

損益通算とは?

複数の所得区分をまたいで、プラスの所得からマイナスの所得を差し引く計算のことです。不動産売却損の場合は「特例」として認められるかどうかが、節税の可否を左右します。

ただし、この「原則として通算不可」には重要な例外があります。それが居住用財産(自宅)の売却に関する特例制度です。次のセクションで詳しく見ていきましょう。

損益通算できる年――居住用財産の特例

自宅(居住用財産)を売却して損失が出た場合、一定の条件を満たせば給与所得など他の所得との損益通算が認められます。これが「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例」と「居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例(住宅ローン残高がある場合)」の2種類です。

特例の種類主な条件通算できる損失の上限
買換え特例(譲渡損失)売却年の前年1月1日〜翌年12月31日に新居を購入し、住宅ローンを組んでいること譲渡損失全額(所得制限あり)
住宅ローン残高特例売却時に住宅ローン残高が残っており、売却価格がローン残高を下回ること(買換え不要)「譲渡損失」と「ローン残高-売却価格」の小さい方

どちらの特例も「自宅として実際に使っていた不動産」が対象です。投資用マンションや賃貸に出していた物件は対象外となります。また、損益通算後に控除しきれない損失は最長3年間の繰越控除が可能です。

所得制限に注意

これらの特例は、通算後の合計所得金額が3,000万円を超える年は適用できません。高所得の方は繰越控除を使う年に所得が3,000万円以下になるよう、タイミングを検討することも一つの手です。

福岡市では博多区・中央区のマンションをファミリー向けに購入し、子どもの独立後に住み替えるケースが増えています。購入時より価格が下がっていれば、この特例が効いてくるタイミングです。

損益通算できない年――非居住用・バブル期物件の落とし穴

損益通算が認められない典型的なパターンをまとめます。知らずに申告しないでいると、そもそも使えたはずの節税機会を逃すことになります。

これらの場合は通算できません

①投資用・賃貸用不動産の売却損、②相続・贈与で取得した物件の売却損(一部例外あり)、③売却した年の合計所得が3,000万円超、④5年以内に同じ特例を使っている場合(重複利用の制限)。いずれも特例の適用外となり、損失はその年限りで切り捨てになります。

特に福岡市で多いのが「バブル期(1980年代後半〜1990年代初頭)に購入した郊外の一戸建てやリゾートマンションを売却したが、当時の取得価格より大幅に安くしか売れなかった」というケースです。このような物件でも、自宅として住んでいた期間があるなら居住用財産の特例を検討できますが、賃貸に切り替えた後の場合は適用外になる点に注意が必要です。

「売って損したのに税金の書類なんていらないよ」と思われる方も多いのですが、損を確定申告しておかないと繰越控除が使えません。損失を"記録"しておくことが節税の出発点です。」

Base-up 竹田 豊

また、土地のみの売却損は原則として損益通算できません。建物部分の取得費は経年とともに減価償却で目減りするため、計算してみると損失が建物より土地に多く出るケースもあります。計算は慎重に行う必要があります。

繰越控除で翌年以降も節税できるケースとできないケース

損益通算で相殺しきれなかった損失は、翌年以降最長3年間にわたって繰り越して控除できます(確定申告が毎年必要)。ただし、繰越控除が有効に機能するのは「翌年以降に給与所得などの課税所得がある」場合です。

状況繰越控除の効果
給与所得者(会社員)翌年〜3年間、給与所得から損失を差し引けるため所得税・住民税が減少する
退職・無収入の年課税所得がなければ控除できても税額はゼロのまま。恩恵を受けにくい
翌年に別の不動産売却益がある同じ分離課税内での通算は可能。タイミングを合わせると有利になる場合がある
所得が3,000万円超の年その年は適用不可(所得制限)

住民税にも繰越控除は効く

所得税だけでなく住民税(翌年課税)にも繰越損失は適用されます。住民税率は一律10%なので、数百万円の損失繰越があれば住民税の節税効果も相当額になります。

繰越控除を3年間フル活用するためには、売却した年から連続して確定申告を行う必要があります。1年でも申告を忘れると、その年の繰越権利が消えてしまうので注意してください。

福岡市での売却相談でよくある実例パターン

最後に、福岡市内でよくあるパターンを整理します。実際にBase-upへご相談いただいたお客様の状況をもとにしたモデルケースです(個人情報は含みません)。

【パターンA】早良区の自宅マンション、住宅ローン残高あり
購入価格3,500万円→売却価格2,800万円、ローン残高2,200万円。損失は700万円。買換えなしでも「住宅ローン残高特例」が使え、ローン残高(2,200万)-売却価格(2,800万)はマイナスのため適用なし……と思いきや、損失700万円のうち特例適用できる金額はゼロ。この場合は買換え特例への切り替えを検討する必要があります。

【パターンB】南区の一戸建て(自宅)を売却し新居を購入
売却損800万円。新居を同年に購入しローンを組んだため、買換え特例が適用。給与所得600万円と通算し、残り200万円を翌年以降3年間繰り越せる可能性があります。

【パターンC】東区の投資用マンションを売却
損失500万円。居住実態がなく投資用のため特例は一切適用できず、損失は切り捨て。ただし同年に別の不動産の売却益がある場合は、同じ譲渡所得内での相殺は可能です。

税理士への相談をおすすめするタイミング

特例の適用可否は物件の利用実態、ローン残高、購入タイミングなど複数の要件が絡み合います。損失が100万円を超える場合や、住み替えを伴う場合は、売却前に税理士へご相談されることを強くおすすめします。Base-upでも提携税理士をご紹介しています。

まとめ

不動産売却で損失が出た場合の損益通算は、「自宅(居住用財産)かどうか」と「住宅ローン残高や買換えの有無」によって大きく結果が異なります。特例が使える年は確定申告で損失を確定させ、繰越控除も最長3年間フル活用することで、所得税・住民税の両方で節税効果を得られます。一方、投資用物件や条件を満たさない年は損失の恩恵を受けにくいため、売却タイミングの計画が重要です。福岡市で不動産の売却を検討中の方は、相場の確認とあわせて税制面の戦略も早めに立てておきましょう。