海外赴任や海外移住が決まったとき、日本に残す不動産をどうするか——多くの方が迷うポイントです。「帰国するかもしれないから持っておくべきか」「海外にいながら売れるのか」「税金はどうなるのか」。この記事では、海外にいる状態で日本の不動産を売却する場合の手続き・税金・注意点を整理します。
この記事の内容
1. そもそも「非居住者」とは?
日本の税法上、「非居住者」とは日本国内に住所を有せず、かつ1年以上国内に居所を有しない個人を指します。海外赴任の辞令を受けて出国し、その赴任期間が1年以上であれば、原則として出国日から非居住者として扱われます。
注意すべきは、住民票を海外転出届で抜いたかどうかは税法上の判定とは別だという点です。実態として1年以上海外に居住していれば非居住者になります。逆に、住民票を抜いていなくても実態として海外に生活の本拠があれば非居住者です。
ポイント
非居住者になると、日本国内の不動産を売却したときの税金の扱いが居住者とは異なります。特に「源泉徴収義務」と「各種控除の適用制限」が大きな違いです。
2. 非居住者が不動産を売却するときの税金
非居住者であっても、日本国内にある不動産を売却すれば日本で譲渡所得税が課税されます。これは「国内源泉所得」として扱われるためです。税率自体は居住者と同じで、所有期間5年以下の短期譲渡なら約39%、5年超の長期譲渡なら約20%です。
ただし、居住者と大きく異なる点が2つあります。
①買主による源泉徴収が発生する——売買代金の10.21%が買主により源泉徴収され、税務署に納付されます。
②一部の税制特例が使えない場合がある——3,000万円特別控除は、条件次第で適用できないケースがあります。
3. 源泉徴収10.21%の仕組み
非居住者から不動産を購入する買主は、売買代金の10.21%を源泉徴収して税務署に納付する義務があります。たとえば3,000万円で売却した場合、買主は306.3万円を源泉徴収し、売主に支払われるのは2,693.7万円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売買代金 | 3,000万円 |
| 源泉徴収額(10.21%) | ▲306.3万円 |
| 売主への支払額 | 2,693.7万円 |
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この源泉徴収はあくまで「仮払い」です。確定申告で実際の譲渡所得税を計算し、源泉徴収額との差額を精算します。取得費や仲介手数料などの経費を差し引いた結果、実際の税額が源泉徴収額より少なければ還付を受けられます。
よくある落とし穴
買主が個人で、自己居住用として購入する場合で、かつ売買代金が1億円以下の場合は、源泉徴収義務が免除されます。ただし、買主が法人の場合や投資目的の場合は金額にかかわらず源泉徴収が必要です。売主から見ると、買主の属性によって手取り額が変わるため、売却活動の早い段階で確認が必要です。
4. 3,000万円特別控除は使えるか?
居住用財産の3,000万円特別控除は、非居住者でも一定の条件を満たせば適用可能です。
最も重要な条件は、住まなくなった日から3年目の年末までに売却を完了することです。たとえば2026年4月に海外赴任で出国した場合、2029年12月31日までに引渡しを終える必要があります。
つまり赴任が長期化するほど、控除適用の期限に近づいていきます。「いつか帰国したら売ろう」と先延ばしにすると、数百万円の節税メリットを失う可能性があります。
確認しておきたいこと
出国前に自宅を賃貸に出している場合も、「住まなくなった日」から3年以内であれば3,000万円控除を適用できます。ただし、賃貸に出した状態での売却になるため、居住用とみなされるかどうかの判断は慎重に。税理士への相談をおすすめします。
5. 海外から売却するための実務手続き
海外にいながら日本の不動産を売却することは、法的にはまったく問題ありません。ただし、いくつかの実務的なハードルがあります。
住民票・印鑑証明の代替
非居住者は日本国内に住民票がないため、通常の印鑑証明書を取得できません。代わりに、在外公館(大使館・領事館)で「署名証明(サイン証明)」を取得します。これが印鑑証明の代わりになります。
また、「在留証明」を在外公館で取得すれば、住民票の代替として使えます。いずれも予約制の公館が多いため、売却が決まった段階で早めに手配しましょう。
登記手続き
所有権移転登記には売主の実印と印鑑証明が必要ですが、非居住者の場合は署名証明で代替します。司法書士との連携で遠隔でも対応可能ですが、書類の郵送に時間がかかる点に注意が必要です。国際郵便のEMSで1〜2週間かかる場合があります。
6. 代理人(受任者)の選定と委任状
海外にいる売主の代わりに、日本国内で売買契約の締結や引渡しの手続きを行う代理人が必要です。
代理人の候補
配偶者や親族が一般的ですが、不動産会社や司法書士に依頼することもできます。重要なのは「委任状」の作成と認証です。在外公館での認証が必要で、委任事項を明確に記載する必要があります。
委任状に記載すべき主な内容
物件の特定(所在地・地番・家屋番号)、委任する行為の範囲(売買契約の締結、代金の受領、所有権移転登記の申請など)、委任の期間、代理人の氏名・住所が必要です。
Base-upの対応
Base-upでは海外在住のお客様の売却実績があり、委任状のひな形提供、在外公館での手続きの案内、時差を考慮したコミュニケーションに対応しています。遠隔でも安心して進められる体制を整えています。
海外からの不動産売却、
まず段取りを整理しませんか?
赴任先からでも進められるスケジュール、源泉徴収の見通し、3,000万円控除の期限をお伝えします。
「今は売らない方がいい」とお伝えすることもあります。
7. 時差がある中での売却活動の進め方
海外赴任中の売却で意外と負担になるのが、時差のあるコミュニケーションです。
不動産会社とのやり取り
アジア圏であれば時差は1〜2時間程度ですが、欧米圏だと8〜14時間のずれが生じます。メールやチャットベースで進められる不動産会社を選ぶことが重要です。「電話でしか連絡しません」という会社は、海外在住者との取引に慣れていない可能性があります。
内覧対応
鍵を不動産会社に預け、内覧は担当者が対応するのが一般的です。家財が残っている場合は、事前に整理するか、国内の知人・親族に依頼します。
契約・引渡し
売買契約は代理人による締結が可能です。最終的な引渡し(残金決済・鍵の引渡し)も代理人が行えます。ただし、銀行口座への入金確認は売主自身で行う必要があります。
8. 帰国してから売るべきか、海外にいる間に売るべきか
結論から言えば、「3,000万円控除の期限」と「市況」のどちらを重視するかが判断の軸になります。
海外にいる間に売る方がよいケース
控除の期限が迫っている場合、帰国予定が未定の場合、空き家のまま放置するリスクが高い場合(台風・水害リスク、劣化、固定資産税の負担)。
帰国してから売る方がよいケース
帰国が1年以内に確定している場合、居住者に戻ることで源泉徴収の問題がなくなる場合、物件に荷物が多く現地での整理が必要な場合。
まず「今の価値」を知ることが出発点
海外にいると日本の不動産市況が見えにくくなります。まず査定で現在の価値を把握し、控除の期限・帰国予定・維持コストと照らし合わせて判断するのが合理的です。査定だけなら遠隔で完結します。
